開発者がAIコーディングアシスタントから得る恩恵はほとんどない?という記事があるが、組織の構造問題を除き、AIをうまく使えば確実にコーディングの生産性は向上する。この記事はクリックベイトであるという指摘1もあり、バグレートが41%上昇したというのもデータが公開されていないのでどれほどの影響があったのかは不明だ。

AIが役に立たないという記事の方が注目を集めるようになったことはハイプサイクルが幻滅期に入ったことを示唆しているが、AIにおける生産性向上が組織を変えるには至っていないのは、イノベーションのジレンマにおける破壊的イノベーションの前触れなのかもしれない。

Lex FridmanによるCursor Founder Teamへのインタビューが公開され、Cursorにおける宣言型プロンプトレンダリングエンジン、コードをサーバーに送信しないコード検索アルゴリズム、高速に推論するためのアンサンブルモデル、コンテキストのおけるトレードオフ、AWSでのスケーリングなど、AIコーディングアシスタントに関する興味深い話が多数取り上げられた。

Cursorではコーディングアシストにより複数行の補完ができるほか、複数ファイルのコードの解説、コード変換やリファクタなど、時間のかかる作業を素早く達成できる。レビューを受けることがないアイデアからPoCレベルのコードをつくりあげる生産性は2-5倍にはなるだろう。1

今のところロジックが正しいか、バグが発生しそうにないか確認が必要であり、どう動くか全く知らないアルゴリズムを依頼して作り上げられる信頼性はない。そういった意味では理解できないコードは書かせず、コードの匂い2を嗅ぐことができる内容に限られる。プロダクションレベルのコードを5倍速く書くことはまだできないが、デバッグやアークテクチャの変更に関しては劇的に削減できる可能性はある。

Cursor Teamはソフトウェアを自動で作成するエージェントではなく、エンジニアが運転席に乗り、AIと協力してプロジェクトを進めるハイブリッドエンジニアリングを目指している3。まさに知能拡張の考え方だ。プログラムの定型作業、雑用はAIがこなし、人間にはより抽象度の高い判断、トレードオフの決断に集中できるようになる。実際Cursorのエンジニアは今が一番プログラムが楽しいし、情熱が重要だと説いている。

AIが近い将来コーディングを全てやるようになる、AIはコーディングに役に立たないといった二項対立ではなく、AIによって拡張する高い生産性や抽象度を活かせる組織形態やプロダクト開発の方法とは何か、という構造の問いに核心は移っていると思う。


Sources

Footnotes

  1. “The first report Gary Marcus cites here is absolute junk” 2

  2. Code smell

  3. Engineering Genius